
大腸がん
大腸とは

大腸は消化管の最後の部分にあたり、食べ物が小腸で栄養を吸収されたあと、その残りを受け取る器官です。長さはおよそ1.5メートルとされ、盲腸・結腸・直腸に分けられています。大腸の大きな役割は「便を作る」ことです。小腸から送られてきた内容物にはまだ水分が多く含まれており、そのままでは体外に排出できません。大腸はここで水分を吸収し、固形の便に形を整えます。
さらに、大腸は単なる排泄の通り道ではなく、体の免疫機能とも密接に関わっています。腸内には100兆個以上ともいわれる細菌が生息しており、これらは腸内細菌叢(腸内フローラ)と呼ばれます。善玉菌や日和見菌がバランスよく働くことで、免疫の調整や代謝産物の生成、ビタミンの合成など、健康を維持するうえで重要な役割を果たしています。大腸の働きが乱れると、便秘や下痢といった消化器症状だけでなく、全身の不調に影響が及ぶことも少なくありません。
大腸がんとは
大腸がんは、大腸の粘膜にある細胞が異常に増殖して腫瘍となり、それが悪性化した状態を指します。最初は「腺腫」と呼ばれる良性のポリープから始まることが多く、これが長い年月をかけてがん化することが知られています。初期の段階では自覚症状がほとんどなく、検診を受けなければ発見が遅れることが少なくありません。
症状が出てくるのはある程度進行してからで、代表的なのは血便や便に混じる鮮血です。便秘や下痢を繰り返すようになったり、便の形が細くなる、残便感があるなど、排便習慣に変化が現れることもあります。また、進行すると体重が減少したり、貧血や倦怠感が出ることもあります。日本では食生活の欧米化や高齢化 に伴い、発症数が増加している疾患のひとつであり、がんのなかでも特に罹患率・死亡率が高い点が特徴です
大腸がんの特徴
大腸がんは、比較的ゆっくりと進行する性質を持っています。小さなポリープができ、それが年単位の時間をかけて少しずつ大きくなり、やがてがんへと変化します。この「時間の猶予」があるため、定期的に検査を受けてポリープの段階で切除することが、大腸がんの予防につながります。
また、大腸がんは場所によって症状や進み方が異なります。たとえば、右側の大腸(盲腸や上行結腸)にできると、便がまだ液状で通過するため、出血があっても便に混ざって見えにくい傾向があります。その結果、症状が出にくく発見が遅れることがあります。一方で左側(下行結腸や直腸)にできた場合、便が固形に近いため出血が目で確認しやすく、便通異常も起こりやすいという特徴があります。こうした左右差も含め、大腸がんは「検査を受けないと気づきにくい病気」であることが大きな特徴です
大腸がんの罹患率・患者数
日本では大腸がんの患者数は年々増加しており、国立がん研究センターの統計でも常に上位に位置しています。男性では肺がんに次ぐ罹患数、女性では乳がんに並ぶほど多く、死亡数でも女性では第1位、男性では第3位に入るなど、非常に身近で重大な病気です。一方で、大腸がんは「早期に見つかれば治る可能性が高い」病気でもあります。ステージ0やⅠで発見された場合の5年生存率は90%を超えるとされ、早期発見がいかに重要であるかを物語っています。
大腸がんの治癒

「がん=治らない」というイメージを持つ方もいますが、大腸がんに関しては早期発見・早期治療によって完治が十分に期待できます。ステージ0やⅠであれば、内視鏡での切除で治療が終わることも少なくありません。ステージⅡやⅢであっても、外科的に腸とリンパ節を切除することで長期生存が可能です。ステージⅣの遠隔転移がある場合でも、切除可能な場合は積極的な外科治療や化学療法で治療実績が改善することが知られています。つまり、大腸がんは「早く見つけることさえできれば治る病気」であり、定期的な検査を受ける意義がここにあります。
大腸がんの原因
原因はひとつではなく、複数の要因が重なって発症すると考えられています。代表的なのは食生活です。肉や脂肪の多い食事、野菜や食物繊維の不足はリスクを高めるとされます。また、飲酒や喫煙、肥満、運動不足なども影響します。
さらに遺伝的要因も重要です。家族に大腸がんやポリープの既往がある場合、リスクが高くなります。特に「家族性大腸腺腫症」や「遺伝性非ポリポーシス大腸がん(リンチ症候群)」といった遺伝性疾患を持つ方は注意が必要です。つまり、大腸がんは生活習慣病的な側面と遺伝的要素の両方を持ち合わせた疾患であるといえます。
大腸がんの進行度
大腸壁への深達度
がんがどの層まで及んでいるかで、治療の選択肢が変わります。粘膜内にとどまるものは内視鏡で治療できますが、筋層や漿膜にまで達すると手術が必要になります。
リンパ節転移
がん細胞はリンパの流れに乗って周囲へ広がるため、転移があると再発リスクが上がります。リンパ節郭清が必要になるのはこのためです。
遠隔転移
肝臓や肺などに転移した場合はステージⅣと診断されます。完全治癒は難しいケースもありますが、近年は外科手術や薬物療法の進歩により、長期生存を得られる方も増えています。
大腸がんの予後
予後を左右するのは「どの段階で見つかるか」です。早期であれば9割以上が長期生存可能で、治癒に至る例も多いですが、進行するとその割合は下がります。また、高齢や基礎疾患の有無によっても異なります。大腸がんは「検診さえ受けていれば救えた命」が多いがんでもあるのです。
大腸がんの検査と診断
早期発見の重要性
肝症状が出るころにはすでに進行していることが多いため、症状がなくても検診を受けることが最大の予防になります。
便潜血検査
便に混じる目に見えない血液を調べる検査です。簡単に受けられる反面、精度には限界があり、陽性の場合は必ず精密検査が必要です。
大腸カメラ検査
大腸の中を直接観察できる唯一の検査です。病変の発見にとどまらず、その場でポリープ切除や組織の採取が可能であり、診断と治療を同時に行える点が最大の特徴です。
がんの位置、深達度や広がり、転移の有無を調べる検査
CTやMRI、PETといった画像検査で、がんの正確な広がりや転移を把握します。治療方針を立てる上で欠かせないプロセスです。